東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1047号 判決 1984年4月26日
控訴人(三九三号原告・一四四九号被告) ユニバース・トレイデイング株式会社 外一名
訴訟代理人 宇田川孝雄 外一名
被控訴人(三九三号原告・一四四九号被告) 株式会社第一勧業銀行
訴訟代理人 原増司 外五名
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
一 控訴人ら訴訟代理人は、「1 原判決を取消す。2 被控訴人の控訴人らに対する請求を棄却する。3 被控訴人は、控訴人ユニバース・トレイデイング株式会社に対し一〇三六万八三三六円及び内金八四一万五〇三六円に対する昭和五〇年一月二九日から、内金一九五万三三〇〇円に対する同年二月二八日から各支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。
1(一) 原判決四枚目裏七行目「定期預金」の次に「として預け入れる」を加える。
(二) 同五枚目表二行目「約束手形金」の次に「三五万二八〇〇円」を加える。
(三) 同七枚目裏九行目「一部」の次に「二七三万九七九七円」を加える。
(四) 同八枚目表三、四行目「一部」の次に「三五万二八〇〇円」を加え、末行「認めるが、」の次に「1(二)の事実は否認する、」を加える。
(五) 同九枚目表四行目を削り、五行目、一〇行目の各「<3>」をいずれも「<2>」と改める。
(六) 同一二枚目裏一、二行目「関らしめられている」を「かからせている」と改る。
(七) 同一五枚目裏一行目「発電し」の次に「、その通知は右各発電した日にエジプト銀行に到達し」を加える。
(八) 同一八枚目裏二行目「に対し」の次に「連帯して」を加える。
2 控訴人らの主張(原審昭和五〇年(ワ)第三九三号事件の再抗弁、昭和五〇年(ワ)第一四四九号事件の抗弁)
(一) 包装明細書等の欠落等
(1) 包装明細書の欠落
被控訴人は、昭和四九年九月七日(イ)及び(ロ)の各信用状(以下、両者を合わせて「本件各信用状」という。)に基づきエジプト銀行から右各信用状にかかる船積書類全部の送付を受けて金員を支払つた旨主張するが、本件各信用状が送付を要求している船積書類中包装明細書の送付がないので、いわゆるデイスクレパンシー(信用状条件との不一致)があり、本件各信用状取引の償還の条件が充足されていない。
すなわち、本件各信用状は、商業送り状、船荷証券、原産地証明書、検査証明書、重量証明書、包装明細書(船荷証券は全通、その他の書類は(イ)の信用状について各四通、(ロ)の信用状について各五通)の各書類を伴い、送り状金額全額について一覧払でエジプト銀行を支払人として受益者が振出した荷為替手形について開設された。そして、信用状買取銀行が本件各信用状に基づき信用状開設者である被控訴人に対し金員の償還を請求するについては、買取銀行がユナイテツド・カルホニア銀行に宛て信用状番号及び開設日を明示した荷為替手形を振出して郵送し、かつ、被控訴人に対しすべての書類を二つの別々のセツトにして航空便で郵送すること等が要件とされている(乙第七号証の一、二)。
しかるに、買取銀行であるエジプト銀行が被控訴人に対し本件各信用状に要求されている書類として送付した書類は、書類送付案内書(乙第一一号証の一、二)や被控訴人から提示された書類によれば、(イ)の信用状については送り状、般荷証券、エジプト商務部の原産地証明書、重量、包装及び品質証明書、重量証明書、重量明細表であり、(ロ)の信用状については送り状、船荷証券、エジプト商務部の原産地証明書、重量、包装及び品質証明書、重量証明書である(乙第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし三、第三二ないし第三四号証の各一ないし四)。したがつて、被控訴人が送付を受けた書類には本件各信用状が送付を要求している船積書類中少なくとも包装明細書が欠落している。
(2) その他の船積書類の欠落
本件各信用状が送付を要求している船積書類としては、右(1) に述べたほか、(イ)の信用状についてエジプト産フラツクス・スカツチド・トウ・タイプ・ジヤスミン約五〇メトリツク・トンの貨物に関する指図式で荷送人が白地式裏書をすることを条件とする船荷証券の全通が要求され、また、(ロ)の信用状についてエジプト産フラツクス・フアイバー・ギザ・タイプ・カイザー約二五トン(以下「(A)貨物」という。)及びエジプト産ブロークン・フラツクス・タイプ・ハラワ約五〇トン(以下「(B)貨物」という。)の各貨物に関する指図式で荷送人が白地式裏書をすることを条件とする船荷証券の全通が要求されていた(乙第七号証の一、二)。
しかるに、(ロ)の信用状の(A)貨物に関する船荷証券は存在せず、そうでないとしても不完全なものである。すなわち、(A)貨物に相応する船荷証券(乙第一二号証の二)の積荷品名はエジプト産フラツクス・フアイバー・タイプ・カイザーと表示され、「ギザ」の文字が欠落し、ギザタイプの貨物とはされていないから、右貨物の品名表示に相違があり、(A)貨物の船荷証券とはいうことができない。けだし、信用状取引は、書類売買であり、船荷証券そのものが信用状の条件に合致していることが必要であり、他の船積書類で補完することができず、右表示の不一致が信用状条件の不一致を来たすからである。
その他、(イ)の信用状の貨物に関する船荷証券(乙第一二号証の一)、(ロ)の信用状の(A)貨物に関する船荷証券(乙第一二号証の二)、同信用状の(B)貨物に関する船荷証券(乙第一二号証の三)の各裏面にされるべき白地式裏書は不鮮明であり、また、本件各信用状が要求する原産地証明書(乙第三二ないし第三四号証の各二)の作成日付が船荷証券発行日後の日付であり、これら書類が本件各信用状の要求する船積書類として適式なものかどうかに疑問がある。
以上の事情は、本件における信用状取引がずさんに処理されていたことの間接事実となるものである。
(二) 包装明細書
(1) 包装明細書の意義
包装明細書は、船積貨物の各包装荷造毎に荷造外形、重量、詰込内容の明細を明らかにするために荷送人によつて作成される書類である。そして、一契約分の送貨に各種の包装が混合し、又は一容器中に各種の内装物が詰合わされているときに商業送り状の付属書類として作成される場合には信用状に添付することが要求されていなくても添付しなければならず、また、信用状に要求されていれば、商業送り状の記載内容を補完してこれと一体となることを必要とする場合でなくても添付されなければならない。
(2) 包装明細書の用途
包装明細書は、買手又は税関が積荷を照合する場合に商業送り状や検量明細書によつては積荷の各箱の純重量や詰込み内容を的確に知りえない場合に作成されるほか、運送業者や倉庫業者が貨物の内容、重量、体積を把握して貨物の運送、保管の便に資し、また、運賃、倉庫料の計算を容易にすることができ、更に、荷受人が元値を明らかにしないで、ユーザーヘの案内書類として利用する機能を果たすなど各種の用途に供されている。
(3) 包装明細書の形式及び内容
包装明細書として一般に用いられる文書の形式及び記載内容は、国際的な商慣習によれば、通常次のような記載がされる。すなわち、包装明細書は、通常「Packing List」という表題が付され、その下に(イ) いかなる契約に基づく貨物であるかを特定するため契約、注文、送り状等の番号、荷受人の名称、住所、荷送人の名称、(ロ) 貨物がいかなる船便で運送されるかを特定するため船名、発地港、着地港、経由地、発港(予定)日の表示、(ハ) 各包装荷造を特定するため各包装荷造毎に付される荷印、荷番号の表示、(ニ) 各包装荷造毎の包装内容物明細を明らかにするため各包装荷造毎の内容物の種類、種類別数量、純重量、(ホ) 各包装荷造毎に荷役、運送、保管等の手配や運送料金計算を可能にするため各包装荷造毎の純重量、大きさ容積等が記載され、かつ、その内容の正確性を担保し、その責任の所在を明らかにするため荷送人側の責任者により署名される。
右のような包装明細書の形式と記載内容は、わが国や欧米で一般に広く慣行として用いられているものであり、また、統一規則三一条の解釈としても、信用状とともに提示されるべき書類は、右のような形式及び内容の書類としての常態性を具備すべきものとされている。
もつとも、包装明細書には厳格な形式や必須の記載事項があるわけではなく、また、包装明細書は、前述のとおり多様な目的のために使用されうるものであるから、個々の事案において要求される目的ないし理由のいかんにより、その記載事項に多少の差異が生じることはあり、包装明細書の必須要件として右に述べた記載事項をすべて網羅することが要求されているわけではない。
(三) 包装明細書の存否
(1) 本件重量、包装及び品質証明書と包装明細書
被控訴人は、昭和四九年九月七日本件各信用状に基づきエジプト銀行から送付された船積書類中の各重量、包装及び品質証明書(乙第三二ないし第三四号証の各三)には包装明細書として記載すべき事項が含まれているから、右各書類は検査証明書であるとともに包装明細書を含んだものと解され、別個に包装明細書は不要である旨主張する。しかし、本件各信用状においては、その文言上検査証明書という書類とは別個に包装明細書という書類が要求されているから、統一規則三一条の解釈からしても検査証明書としての常態性を具備した書類と別個に包装明細書としての常態性を具備した書類が存在しなければならない。
ところで、右重量、包装及び品質証明書と題する書面は、その表題及び形式内容からみて品質、数量、包装状態、その他積荷について検査した結果を証明する検査証明書として通常具有する内容を表示しているから、本件各信用状が要求する検査証明書としての常態性を具備した書類であることが明らかである。しかるに、検査証明書とは別個に包装明細書が存在しないことは、被控訴人の主張自体からも明らかである。
仮に本件各信用状が検査証明書とは別個に包装明細書を要求していても一個の書類で右両者に該当する書類が存在すれば本件各信用状の要求を充足すると解されるとしても、右重量、包装及び品質証明書は、右のとおり検査証明書としての常態性を具備しているが、その表題及び形式内容からみて包装明細書としての常態性を具備していないから、一個の書類で右両者に該当するものとはいえない。もつとも、右重量、包装及び品質証明書は、荷姿の記載らしいものを有するが、これをもつて包装明細書を兼用し、その代替となりうるものとはいえない。したがつて、本件各信用状の要求している船積書類中には包装明細書が欠落している。
(2) 包装明細書の別個独立性
統一規則七条によれば、銀行は、提示された書類について相応の注意をもつて点検し、文面上信用状条件に一致しているかどうかを確かめなければならないとされている。しかも、本件において信用状買取銀行であるエジプト銀行は、被控訴人に対し書類送付案内書(乙第一一号証の一、二)をもつてエジプト銀行が条件不一致に関して生ずるかも知れないすべてのクレームに対して保留条件付で支払つたこと、右保留条件を解除してよいかどうかを早急に知らせて貰いたいことを述べているから、結局、エジプト銀行は、被控訴人に対しエジプト銀行としては条件不一致の支払拒絶があつても損失がないように手当済であつて、被控訴人が書類の審査を十分にするように注意を喚起し、かつ、その審査の結果を早急に通知することを求めているといえる。しかるに、被控訴人は、統一規則の定める書類点検義務を怠り、本件各信用状の条件に一致しないものを一致するものと誤信していたものというべきである。
ところで、被控訴人は、包装明細書が商業送り状の補足書類であるので、送貨の状況によつては他の書類をもつて補充して確知しうれば十分であるから、信用状により包装明細書の作成義務が課せられている場合であつても、その作成様式について具体的指示がない限り包装明細書としての役割を果たしうる書面があれば、右作成義務が尽されている旨主張する。被控訴人の右主張の帰結として、銀行がある送貨について検討した結果、商業送り状の記載が完備していて包装明細書による補足を必要としないと認める場合には、たとえ信用状が商業送り状とは別個に包装明細書の提示を要求していても、包装明細書を提出する必要がなく、また、銀行が包装明細書はもとより、その他の書類についてもその書類の目的とされる記載内容が他の書類中に散見される場合には、信用状が当該書類の提示を要求していても、これを提示する必要がないこととなる。しかし、右のような主張は、被控訴人独自の見解であり、統一規則中のいずれの規定からも是認する趣旨を見出すことはできない。かえつて、統一規則三一条が同規則中の他の規定により特に形式内容について規定されていないその他の書類については銀行が提示された書類をそのまま受理してよいと定めていることからみても、同規則は、このようなその他の書類については少なくとも独立の書類として存在しなければならないことを前提としていると解されるのである。
また、右のように解すべきことは荷為替信用状取引の性格からも肯認しうる。すなわち、荷為替信用状の取引は、書類の取引であり、売買契約その他の契約に基づくものであつても、それらの契約とは別個の取引であるから(統一規則総則と定義C項)、信用状が包装明細書を要求している場合には、信用状取引にあたる銀行は、信用状の文面によつてのみいかなる書類が要求されているかを判断すべきであつて、信用状の背景にある売買契約等についていかなる理由により当該書類が必要とされるのかを憶測し、他の書類によつて充足されているかどうかを判断したり決定したりする権限及び義務はないものと解すべきである。また、信用状取引の背景にある売買契約等の当事者は、その契約の要請する各種の理由や用途により信用状が必要とする書類の種類及び部数を指定するから、かかる契約当事者の意向が信用状の文面に表われていない限り、銀行が誤りなくその意向を忖度し、要求された書類の必要性が他の書類によつて充足されているかどうかを誤りなく判断することは不可能であり、銀行は、特別の事情のない限り、かかる行為に出ることを差し控えるべきである。
(3) 包装明細書の代替書類の不存在
仮に被控訴人主張のように重量、包装及び品質証明書、その他の書類中に包装明細書の記載事項とされる事項がすべて記載され、これら書類により包装明細書を代替しうるとしても、本件においては前記重量、包装及び品質証明書は、前述のとおりその表題及び形式内容からみて検査証明書としての常態性を具備した書類にすぎず、検査証明書を構成する事項のみが記載され、包装明細書の記載事項を具備するものではない。すなわち、本件各信用状の商業送り状(乙第三二ないし第三四号証の各一)の記載によれば、本件各信用状の取引の対象とされた商品の包装の状態は、(イ)の信用状の貨物三三三梱包、(ロ)の信用状の(A)貨物一二五梱包、(ロ)の信用状の(B)貨物三四梱包についていずれも荷印として「A.F.T.C.O U.T.C JAPAN」という共通の荷印が使用され、かつ、商品が露出しないように麻袋に入れられて圧縮して鉄製留金により帯状に縛られ、その梱包の重量は、(イ)の信用状の貨物、(ロ)の信用状の(B)貨物について各一五〇キログラム・ネツト、(ロ)の信用状の(A)貨物について二〇〇キログラム・ネツトであるとされている。そして、右三種類の商品は、いずれも横浜港に向け、穂高山丸に積み込まれて混載送付されるところ、右のとおり多数の梱包に分けて包装され、共通の荷印が使用され、各梱包の方法(荷姿)が全く同一であるから、荷受人、税関はもとより、運送業者や倉庫業者にとつて各梱包の内容、体積、重量等を識別するためには各梱包毎に適切な表示がされ、かつ、包装明細書によつて明細が明らかにされることが必要である。
右のような事情からして、本件各信用状は、特に包装明細書を要求しているのである。しかるに、被控訴人の挙示する書類中には右のような識別に必要な表示がされていることを示すものは存在しない。
もつとも、右書類中には梱包毎の総重量を測定したとみられる書類(重量証明書中の重量明細部分)が存在し、右書類の記載によれば、(イ)の信用状の貨物三三三梱包は梱包毎の総重量が最大一六三キログラム、最小一四二キログラム(但し、内容物は各一五〇キログラム・ネツト)、(ロ)の信用状の(A)貨物一二五梱包は梱包毎の総重量が最大二二〇キログラム、最小一九六キログラム(但し、内容物は各二〇〇キログラム・ネツト)、同信用状の(B)貨物三四梱包は梱包毎の総重量が最大一五四キログラム、最小一四七キログラム(但し、内容物は各一五〇キログラム・ネツト)と記載されているが、各梱包の体積を示す記載は全く見当らない。そして、被控訴人は、右各梱包の商品は書類上同一物であり、ほぼ同一容積であるから、積荷照合のための容積の記載をする必要性がない旨主張する。しかし、商品の梱包毎の体積ないし容積を表示することは包装明細書に通常記載される事項の一つであり、また、右記載によつて運賃、倉庫料の算定が容易であり、貨物を運送ないし保管するためのスペースの手配に資するなどの重要な役割を果たすものであるから、本件各信用状においても各梱包の体積を記載した書類を必要とするのである。
以上のとおり、被控訴人の挙示する書類には包装明細書に通常記載されるべき事項が網羅的に記載されているとはいえず、包装明細書に代わりうる書類が存在しない。
(4) エジプト銀行の選択権の行使
被控訴人は、統一規則総則と定義・項により信用状買取銀行であるエジプト銀行が同規則三一条の付与する権限に基づき重量、包装及び品質証明書と題する書面を包装明細書をも含んだ書類として選択して受領したから、被控訴人がエジプト銀行の選択に拘束される旨主張する。しかし、統一規則三一条は、同条にいわゆるその他の書類についてかかる書類としての常態性を具備した形式、内容のものであれば、これをそのまま受理しうる旨を定めたものにすぎないところ、右規定はかかる書類が存在しないのに存在するものとして受理することを容認したものではなく、また、包装明細書に該当する書類の存在しない本件においては、エジプト銀行が被控訴人主張のような選択をする余地はない。
仮にエジプト銀行がかかる選択権を行使する余地があるとしても、同銀行が右選択権を行使したことはない。すなわち、エジプト銀行は、被控訴人に対し本件各信用状とともに受益者から提出された書類を送付した際、その案内状としての書筒(乙第一一号証の一、二)をも送付したが、右案内状によれば、包装明細書を送付する旨の記載がなく、また、重量、包装及び品質証明書が検査証明書であると同時に包装明細書をも含むものであるとして選択した旨の記載もない。すなわち、右案内状によれば、送付された書類は六種類があるとされているが、そのうちには包装明細書という表題の書類がなく、また、エジプト銀行は、包装明細書という表題のない書類を包装明細書を含むものとして選択したのであれば、右六種類の書類のいずれをかかる書類として選択したかを外部の者に対して明らかにずべきであるのに、右選択をしたことを明らかにしていない。
(5) 本件以前における類似取引
被控訴人は、控訴人ユニバース・トレイデイング株式会社(以下「控訴会社」という。)が本件以前においてアラブ・フオーリン・トレードとの間で本件取引と類似の取引一件をした際、本件と同様の書類を異議なく受領した旨主張するが、これは控訴会社が不備な書類の受入を容認したわけではなく、むしろ、被控訴人が信用状発行銀行として自らの義務に違反したことを示すものである。すなわち、本件以前の右取引において被控訴人は、控訴会社の依頼により信用状を発行したところ、信用状発行銀行は、送付を受けた船積書類が文面上信用状条件と一致しているかどうかを調査する義務があり(統一規則七条)、書類に不備がある場合にはデイスクレパンシー(信用状条件との不一致)があるとしてクレームを申し立てるかどうかを決定し、クレームを申し立てる場合には右書類を送付した銀行に対し速やかな方法でその旨を通告し(統一規則八条)、また、クレームを申し立てるかどうかの決定に際しては信用状開設依頼人に対しても書類の不備があつたことについて報告をすべき受任者としての義務を負うのである(民法六四四条、六四五条)。しかるに、被控訴人は、本件以前の右取引において信用状の要求する包装明細書が存在しないのに、控訴会社に対しその旨の報告をせず、また、クレームを申し立てなかつた。
もつとも、信用状開設依頼者において商品の早期受領を欲する場合に書類の不備があつても、これをとがめずに不備のある書類を受け入れることもあるが、このためにその後の取引において同様な書類の不備を容認するものではない。特に、本件においては、控訴会社とアラブ・フオーリン・トレードとの間で出荷時期を延期して本件各信用状の条件を変更したことについて争いがあり、控訴会社が商品の早期受領を欲していないことは被控訴人も熟知していたところであり、また、控訴会社は、被控訴人に対し文書(甲第二一号証)をもつてデイスクレパンシー(信用状条件との不一致)を理由として本件各信用状に基づく支払を拒否する旨を要請していたのである。
右のとおり、控訴会社が以前に不備な書類を受け入れたことがあつたとしても、被控訴人は、本件において支払銀行としての書類点検義務を怠つたことを正当化しうるものではない。
(四) 結論
以上のとおり、被控訴人は、エジプト銀行から送付を受けた船積書類には本件各信用状が要求する包装明細書等が欠落し、信用状条件との不一致があつたのに、右不一致についての審査義務を怠り、エジプト銀行に対し支払拒絶権を行使することなく本性各信用状に基づく支払をしたから、控訴人らは、被控訴人に対し本件各信用状による補償金支払義務を負うものではない。
3 被控訴人の主張
(一) 前記控訴人らの2(一)ないし(四)の主張は争う。
(二) 包装明細書等の存在等
(1) 包装明細書の存在
控訴人らは、信用状買取銀行であるエジプト銀行が本件各信用状発行銀行である被控訴人に送付した船積書類中には本件各信用状が送付を要求している包装明細書が欠落し信用状条件との不一致がある旨主張する。しかし、右書類中には包装明細書が欠落しているものではない。
すなわち、包装明細書は、商業送り状の補足書類、参考書類であり、買主又は税関が積荷を照合する場合に商業送り状や検量明細書により積荷の各箱の純重量や内容を的確に判明することができない場合に作成されるのである。右のような包装明細書の作成理由からして、信用状に包装明細書の記載事項が特定されている場合はさておき、信用状に単に包装明細書の添付が要求され、特段の記載事項の定めがない限り、包装明細書の存在意義、目的を考慮して包装明細書を作成すべきであるから、送貨の状況によつては包装明細書を添付する必要性の有無、包装明細書の記載内容の程度に差異が生じて来るのである。例えば、一契約分の送貨中に各種の包装が混合していたり、一容器中に各種の内容物が詰め込まれていたりした場合には、送貨状態を一覧表にして各容器毎の内容明細、正味重量、総重量、容積等の記載をする必要がある。これに反し、一契約分の送貨が単一の包装であり、また、一容器中の内装物が単一である場合には送貨状態を一覧表にする必要がなく、送貨重量等については他の書類をもつて補充しうるのであり、送貨状態についてはどのような状態の荷物であるかを確知しうれば足りるのである。したがつて、右の場合には信用状により包装明細書の作成義務が課せられているとしても、その作成様式について具体的指示がない限り、包装明細書としての役割を果たしうる書面があれば、その作成義務は尽されているのであり、また、包装明細書としての記載程度は包装の荷姿の記載のみで足りるのである。
そして、本件における送貨は同種類の繊維製品であるところ、エジプト銀行が被控訴人に送付した書類(乙第三二ないし第三四号証の各一ないし四)中には重量、包装及び品質証明書(乙第三二ないし第三四号証の各三)があり、また、右書類には全商品が輸出に適するように麻袋に入れられて圧縮され鉄製の留金により帯状に縛られている旨の記載、すなわち、包装は圧縮梱包により梱包されている旨の記載があるから、荷姿の記載がある。したがつて、本件においては、重量、包装及び品質証明書の記載内容をもつて包装明細書の記載内容として十分であるといえる。
のみならず、本件各信用状には統一規則に準拠する旨が記載されている(乙第七号証の一、二)ところ、包装明細書は同規則三一条所定のその他の書類に含まれるが、同条によれば、その他の書類について特段の指定がない場合には、銀行は、これをそのまま受理しうる旨が定められているから、信用状買取銀行は、信用状に特段の指示がない限り、書類についての選択権を与えられているので、甲書類として提示された書類をそのまま甲書類として受理しうるのである。そして、本件各信用状の買取銀行であるエジプト銀行は、選択権を行使し、信用状に特段の記載内容についての指示がないので、包装明細書としての記載内容を十分有する右重量、包装及び品質証明書についてこれが包装明細書を含んだ書類として選択して受理した。買取銀行が右のように選択権を行使して書類を受理した以上、全当事者はその選択に拘束されることとなる。したがつて、被控訴人が送付を受けた書類中には包装明細書が存在する。
(2) その他の船積書類の存在
控訴人らは、被控訴人がエジプト銀行から送付を受けた船積書類中には(ロ)の信用状の(A)貨物に関する船荷証券が存在せず、そうでないとしても不完全なものである旨主張する。そして、たしかに控訴人ら主張のとおり(A)貨物は、(ロ)の信用状(乙第七号証の二)においてエジプト産フラツクス・フアイバー・ギザ・タイプ・カイザーと記載され、船荷証券(乙第一二号証の二)においてエジプト産フラツクス・フアイバー・タイプ・カイザーと記載されてギザの文字が欠落しているが、右欠落があつたことのみによつては、右船荷証券が存在せず、また、信用状条件との不一致があつたということができない。すなわち、統一規則三〇条によれば、商業送り状に記載する商品の名称は信用状面の名称と一致しなければならないが、その他の書類においては商品の名称は一般的な用語によることができる旨が規定されているところ、船荷証券は右規定にいうその他の書類に含まれるから、船荷証券における商品名は、明らかに商業送り状における商品名の記載と矛盾していない限り、一般的な用語をもつて記載すれば足りる。けだし、商業送り状は、売主が買主、荷送人等に対して積み出し又は送付した商品について数量、価値ないし価格、付加された諸費用とともに細目を示した計算書であつて、売主が買主に対して売買条件に一致させた旨の陳述となるものであり、信用状条件の記載と厳格に合致しなければならないとされているのに対し、船荷証券は、売買取引の当事者でない運送人が作成発行する証券であつて、信用状の記載どおりの専門用語の名称やその他の態様を示す明細が記載されることを期待することが困難だからである。
また、控訴人らは、本件各信用状の各貨物に関する船荷証券(乙第一二号証の一ないし三)の各裏面の白地式裏書が不鮮明である旨主張するが、右のような事実は存在しない。
更に、控訴人らは、本件各信用状の各貨物に関する原産地証明書(乙第三二ないし第三四号証の各二)の作成日付が右船荷証券発行日後の日付である旨主張するが、本件各信用状においては、原産地証明書の作成日付が貨物の船積前の日付に限る旨の特別の指示がなく、また、統一規則にも右のような規定がない。実際上、売主が原産地の税関又は商工会議所等に対し原産地証明書の申請をしても、その交付を受けるまでには長時間を要し、船積後に交付されることもしばしばあり、わが国においては、やむをえない理由により輸入申告時に原産地証明書を提出できない場合には適当と認められる送り状のような書類をもつて代替しうるとされている。このように、原産地証明書の日付が船積の前後であるかどうかによつて、その効力に差異が生じることはありえない。のみならず、原産地証明書は統一規則三一条所定のその他の書類に含まれるところ、信用状買取銀行であるエジプト銀行は、統一規則三一条による選択権を行使し、信用状に特段の記載内容についての指示がないので、右原産地証明書を適正な原産地証明書として選択して受理したから、全当事者はその選択に拘束されることとなる。したがつて、右原産地証明書は有効である。
(三) 包装明細書
(1) 包装明細書の目的
包装明細書の共通目的は包装の内容を的確に把握することにあるから、右のような把握ができる記載のある書類は、書類の取引である荷為替信用状取引における包装明細書としての機能を十分に果たしうるものである。被控訴人は、信用状開設銀行として控訴人らの主張する多様な目的を知りえないものである。
(2) 包装明細書の形式及び内容
控訴人らは、包装明細書が国際的商慣習又は慣行として一定の形式及び内容を有すべきものであるが、本件における重量、包装及び品質証明書(乙第三二ないし第三四号証の各三)は右のような形式及び内容を欠くから包装明細書ではない旨主張する。しかし、包装明細書が控訴人ら主張のような形式及び内容を具備すべきであるとする商慣習ないし慣行は存在しない。
すなわち、控訴人らがこの点について提出した書証のうち、(イ) 石田貞夫著貿易実務(甲第二〇号証の一)二六五頁記載の例によれば、控訴人らのいう必須要件である発地港、着地港、経由地を記載する欄がなく、同書二六四頁には包装明細書は送り状の補足書類であつて、送り状や検量明細書に記載のない事項を記載する旨が記載されている。(ロ) 藤松重隆外二名著外国為替実務講座一巻(甲第二〇号証の二)六六頁の例によれば、控訴人らのいう必須要件である各包装荷造毎の数量、純重量、総重量、大きさ容積等は表示されず、サイズ毎に八つの貨物を二つの梱包に分けて両者の各合計の純重量、総重量、大きさのみが示されている。これは、本件において同一種類の貨物についていくつかの梱包の全体の重量が記載されているのと同一である。(ハ) 貿易実務講座第四巻(甲第二〇号証の三)二九五頁の例によれば、荷受人、荷送人の記載がなく、その代わりに荷姿(カートン、紙箱)の記載がある。(ニ) 「FORREIGN TRADE」(甲第二〇号証の四)八九五頁の例によれば、船名を記入する欄がなく、その代わりに荷姿を記入する欄(ケース、梱包、木枠、カートン、ドラム等のいずれかを選ぶ。)がある。
また、実際の貿易取引に用いられている包装明細書の参考例をみても、(イ) 韓国の輸出業者作成のものには重量と大きさ容積の記載がなく、また、カートン毎の種別重量、純重量、総重量等の記載がない。(ロ) タイで作成されたものには契約番号、船の発港予定日、大きさ容積等の記載がない。(ハ) 西ドイツで作成されたものには契約番号、船名、発地港、着地港、経由地、発送予定日、荷印、大きさ容積の記載がない。(ニ) 台湾で作成されたものには大きさ容積の欄はあるが、内容の記載がない。(ホ) 日本の輸出業者が作成したものには送り状(インボイス)と包装明細書(パツキング・リスト)とを兼用した例があるが、大きさ容積の記載がない。なお、以上の参考例のいずれにも荷姿(カートン等)の記載がある。
更に、控訴人らは、包装明細書における大きさと容積の記載は運賃、倉庫料等の算定のために必要である旨主張するが、運賃、倉庫料等は包装明細書の記載の有無に拘らず、各地の公認の検定協会(例えば日本海事検定協会)の測定結果に基づいて計算される(乙第三五号証の一、二)から、包装明細書に記載しなければならないものではない。
(四) 包装明細書の存否
(1) 本件重量、包装及び品質証明書と包装明細書
被控訴人が信用状買取銀行であるエジプト銀行から送付を受けた船積書類中の重量、包装及び品質証明書は、その表題が「包装・・・・・証明書」であることからみて包装明細書である。
また、控訴人らが包装明細書に記載すべきことが要求されているという事項については、その殆んどが右重量、包装及び品質証明書に網羅されており、右書類で判明しない事項は送り状、重量証明書により容易に判明しうるのである。すなわち、右重量、包装及び品質証明書には契約番号の記載はないが、荷受人の名称、住所、船名、着地港、品名、梱包の数、荷姿、商品全体としての純重量、総重量が記載され、受益者であるアシユリーにより署名される。
なお、右重量、包装及び品質証明書には荷印、荷番号、包装内容物の種類、純重量、各包装荷造毎の容積が記載されていない。しかし、荷印については、それが包装の外装上に付する特定の記号、仕向地をいい、混積している荷物の中から積送地や揚卸地を運送証券や送り状と照合して知りうるために必要とされるものであるところ、本件においては、送り状(乙第三二ないし第三四号証の各一)に荷印(A.F.T.C.O U.T.C JAPAN)が記載されているから、包装明細書が前述のとおり送り状の補足書類、参考書類である以上、送り状で判明している事項について包装明細書に記載がなくても問題がない。荷番号については、右重量、包装及び品質証明書に記載されている商品は、その書類毎に同一商品であつて、荷番号を付して区別する実益がないから、それぞれの商品の合計数を表示すれば足りる。包装内容物の種類、純重量については、右証明書に記載されている商品は、その書類毎に同一商品であり全体としての商品名の表示があれば足り、その種類を記載する必要がない。数量については、前述のとおり右証明書上に商品全体としてのそれぞれの純重量、総重量が表示されているうえ、被控訴人に送付された重量証明書(乙第三二ないし第三四号証の各四)に各梱包の総重量が個別的に記載されている。容積については、右重量、包装及び品質証明書に記載されている商品は、同一物であり、かつ、同一の方法によりほぼ同一の重量、容積のものが梱包されているから、積荷照合のための容積の記載をする必要性がない。
以上の事実と包装明細書が前述のとおり送貨内容を把握するための書類であつて、送り状の補足書類、参考書類としての目的を有することを合わせ考えれば、右重量、包装及び品質証明書は包装明細書といえるのである。
(2) 二個の書類の兼用関係
控訴人らは、検査証明書と包装明細書とはそれぞれ別個独立に存在することが必要である旨主張する。しかし、右のような二個以上の書類が一個の書類上に記載されることは判例と実際例からも肯認しうるのである。
すなわち、ガタリツジ著銀行家の商業信用状法(第五版、乙第三七号証の一、二)一三〇頁掲載の判決例によれば、信用状上においてオリジナル・ウエイト・サーテイフイケツトとオリジナル・ジユート・ミルズ・サーテイフイケツトとが要求されていたのに、提示された書類がジユート・ミル・アンド・ウエイト・サーテイフイケツトであり、右両者を合体したものであつたところ、信用状発行銀行は右書類を受領して信用状に基づいて支払をし、裁判所も右支払を容認した。右判決例によれば、検査証明書と包装明細書とが合体してもよいことが示唆されている。
また、米国の判例(リチヤード対ロイヤル・バンク・オブ・カナダ事件、米国第二サーキツト管轄控訴裁判所一九二八年一月九日判決、乙第三九号証)によれば、信用状において一定の当事者により承認された重量証明書が為替手形とともに提示されることを要求している場合でも、送り状に重量が記載され、かつ、重量証明書を証明するように指定された者が右重量を承認した場合には、重量証明書が信用状発行銀行に提示されなくても、信用状発行依頼人は右銀行に対し補償の責任を免れないとしている。右裁判例は、重量証明書については、そのような表題の独立の書面自体が存在しなくても、実質においてそれが要求された趣旨が充足されていれば、信用状条件は充足されるとしているのである。
(3) 商品の区別
控訴人らは、(イ)の信用状の貨物、(ロ)の信用状の(A)貨物及び(ロ)の信用状の(B)貨物の各商業送り状(乙第三二ないし第三四号証の各一)に記載されている荷印がすべて同一であつて商品の区別がつかない旨主張する。しかし、右各貨物については、商業信用状取引上、商品の混同がなく区別は明らかである。
すなわち、商業信用状取引は書類の取引である(統一規則七条)から、書類上で商品の混同がなければ足りるところ、右三種類の各貨物は、それぞれの商業送り状に分けて別々に記載されているから、区別は明らかであり、書類上で商品の混同がない。なお、本件においては、(A)貨物及び(B)貨物の二種類の商品取引のため一通の(ロ)の信用状が作成され、同信用状により船積書類の交付が要求されているから、本来は右二種類の商品を一緒に記載した一組の船積書類が交付されても同信用状条件を満たすのである。ところが、本件においては、(A)貨物及び(B)貨物に対応する商業送り状その他の船積書類が別個に一組ずつ作成され、右各商業送り状にそれぞれの船積書類(乙第三二ないし第三四号証の各二ないし四)が添付されているから、右各商業送り状において商品はそれぞれ特定されており何ら問題がない。
(4) エジプト銀行の条件不一致の付記
控訴人らは、信用状買取銀行であるエジプト銀行が被控訴人に対し書類送付案内書(乙第一一号証の一、二)をもつて信用状条件の不一致に関する付記をした旨主張する。しかし、エジプト銀行の付記は包装明細書の存否とは全く無関係のものである。
すなわち、右案内書で不一致に関して付記しているのは、昭和四九年八月一五日及び同月二二日のエジプト銀行の電報(乙第一九、二〇号証)の内容、すなわち、同銀行が控訴会社に対して以前に船積の時期の問い合わせをしたのに返事がなかつたことについて注意を喚起したことに関するものである。なお、右船積の時期については、原判決も信用状条件の変更がなく、結局、条件の不一致がないと判示している。
(5) 本件以前における類似取引
控訴会社は、本件の二年前、アラブ・フオーリン・トレードとの間で本件取引と類似の取引一件をしたが、その際、被控訴人は、控訴会社の依頼により信用状(第一五二-一二〇-〇一〇九〇号、乙第三六号証の一)を開設し、現実に商品の輸入が行われた。右取引における信用状においては、本件各信用状と同様に検査証明書と包装明細書とが要求されていたのに、被控訴人は、受益者であるアラブ・フオーリン・トレードからエジプト銀行を通じて本件と同様に重量・包装及び品質証明書(乙第三六号証の二)の送付を受けたにすぎなかつたため、控訴会社に対しその旨を記載した書類到着案内(乙第三八号証と同一内容をタイプしたもの)を交付して意向を確認したが、控訴会社は、何ら異議なく決済した。
右事実によれば、控訴会社は、当時包装明細書の参考例、実際例が数々あつて、その形式及び内容が一定せず、種々の形式のものがあるという現実を十分認識し、右重量、包装及び品質証明書が信用状において要求された包装明細書であると判断したものである。
なお、控訴人らは、控訴会社が被控訴人に対し文書(甲第二一号証)をもつて信用状条件との不一致を理由として本件各信用状に基づく支払を拒否することを要請した旨主張する。しかし、被控訴人は、控訴会社から右文書を受領したことがない。右文書は、控訴会社の発送用の書状で控訴会社の従業員木下が署名したものであるが、控訴会社の記録中にあり日付の記録もないことからみて控訴会社側で作成し、何らかの理由で自社の記録中に保存していたものにすぎない。
4 証拠<省略>
理由
一 当裁判所は、控訴会社の被控訴人に対する原裁判所昭和五〇年(ワ)第三九三号事件の請求を失当として棄却すべく、被控訴人の控訴人らに対する原裁判所昭和五〇年(ワ)第一四四九号事件の請求を正当として認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。
1 原判決二三枚目表六行目「一二日」を「二二日」と改める。
2 同二五枚目裏三行目「船荷証券」から六行目「理由がない。」までを「右船荷証券に船積年月日の記載がなくても、船積の日付は右船荷証券の発行年月日(一九七四年八月五日)と同一であるとみなされるので、右船積年月日の欠落をもつて直ちに信用状条件の不一致があるということはできない。したがつて、控訴会社の右主張は採用することができない。」と改め、七行目「(二)」から同二六枚目表五行目「採用できない。」までを削る。
3 同二六枚目表六行目「(三)」を「(二)」と改める。
4 同二七枚目表七行目「発し」の次に「、右通知はそれぞれ通知を発した日にエジプト銀行に到達し」を加え、一〇行目「いること」の次に「、(ロ)の信用状が昭和四九年八月五日までに受益者アシユリーからアラビンペツクスに譲渡されたこと」を加える。
5 同二七枚目裏五行目「なのである」を「であるというべきである」と改める。
6 同三一枚目裏六行目「適用があるので、」を「適用があるが、その成立及び効力に関する準拠法については当事者間に明示の約定がないことは弁論の全趣旨により明らかであるので、」と改める。
7 同三三枚目表八行目「九条によつて」を「九条によれば、契約の」と改め、一〇行目「取引」を「契約」と改める。
8 同三三枚目裏二行目「取引の申込」から四行目「適当でない。」までを「契約の申込に限ると解するのが相当である。」と改める。
9 同三四枚目表一行目「その全員」の前に「前述のとおり」を加え、末行「主張するが、」の次に「成立に争いのない」を加える。
10 同三五枚目表一〇行目「並びに」の前に「、弁論の全趣旨により成立を認める甲第二一号証」を加え、同行「被告銀行」から末行「銀行になした」までを「被控訴人は、昭和四九年九月一〇日ころ控訴会社に対し照会状を交付して本件各信用状条件の不一致の有無について照会し、同年九月一二日ころ控訴会社から右条件不一致がある旨の回答を受けたうえ、同年九月一三日ころ及び同年一〇月一二日ころの二回にわたり買取銀行であるエジプト銀行に対し電信を発して条件不一致を理由に本件各信用状に基づく支払をしない旨の通知をしたこと、右」と改める。
11 同三五枚目裏七行目「を論ずる余地もない。」を「について判断するまでもなく、控訴会社の右主張は採用することができない。」と改める。
12 同三六枚目表末行「原告会社主張の」を「被控訴人がした前記」と改める。
13 同三六枚目裏一行目「少くとも約一か月余後」を「約一ないし二か月余後の昭和四九年一一月二〇日ころ」と改め、九行目「ものではなく、」を「ものではないというべきである。」と改め、一〇行目「条件不一致り照会」を「条件不一致について被控訴人のした前記照会」と改める。
14 同三七枚目表五、六行目「明らかにしたものに過ぎず、」を「明らかにしようとしたものにすぎないこと、」と改め、六行目「しかも」から七行目「説明されている」までを「被控訴人五反田支店係員山崎清は、昭和四九年九月一二日ころ控訴会社係員山村清雪から右のような条件不一致がある旨の説明を受けた」と改め、末行「なされた」を「した」と改める。
15 同三八枚目表六行目「成立に争いのない」から八行目「全趣旨によると、」までを「前掲乙第二号証、第一三号証、原審証人山崎清の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、」と改める。
16 同三九枚目表三行目「一部」の次に「二七三万九七九七円」を加え、八行目「一部」の次に「三五万二八〇〇円」を加える。
17 同四一枚目裏四行目「同日」を「同月」と改める。
18 同四二枚日表四行目「<b>につき」の次に「金三万〇二九五円のうち」を加え、四、五行目「金三万〇二九四円」の次に「、但し、いずれも円未満切捨」を加える。
19 同四三枚目裏一行目「遅延損害金中」を「遅延損害金三万〇二九五円のうち被控訴人の請求にかかる」と改め、五行目「原告会社」を「控訴人ら」と改める。
20 控訴会社は昭和五〇年(ワ)第三九三号事件の再抗弁として、控訴人らは同年(ワ)第一四四九号事件の抗弁として、被控訴人において本件各信用状の買取銀行であるエジプト銀行から送付を受けた船積書類中には本件各信用状が要求する包装明細書等が欠落する等し、信用状条件との不一致があつたのに、右不一致についての審査義務を怠り、エジプト銀行に対し支払拒絶権を行使することなく本件各信用状に基づく支払をしたから、控訴人らは被控訴人に対し本件各信用状による補償金支払義務を負わない旨主張するので、判断する。
(一) 前掲乙第七号証の一、二、第一八号証によれば、本件各信用状には、国際商業会議所刊行二二二号「荷為替信用状に関する統一規則および慣例」(一九六二年改定条文)に準拠する旨の適用文言の記載があり、同規則七条は、「銀行は相応の注意をもつてすべての書類を点検し、それが文面上信用状条件に一致しているとみなされるかどうかを、確かめなければならない。」と規定していることが認められる。
ところで、前掲乙第七号証の一、二によれば、信用状番号一五二-一二〇-〇一一五四の取消不能荷為替信用状(本件(イ)の信用状)には、商業送り状四通、貨物が完全な状態で船積み済みであることを証明した船荷証券全通、それは指図式で、白地式裏書があり、かつ、運賃着払の旨が記載されてあり、貨物到着通知先がバイヤーとなつているもの、原産地証明書四通、検査証明書四通、重量証明書四通、包装明細書四通の各書類を伴う送り状金額の全額について一覧払でナシヨナル・バンク・オブ・エジプトを支払人として振出された受益者の荷為替手形に対して有効である旨の記載、信用状番号一五二-一二〇-〇一一八二の取消不能荷為替信用状(本件(ロ)の信用状)には、商業送り状五通、貨物が完全な状態で船積み済みであることを証明した船荷証券全通、それは指図式で、白地式裏書があり、かつ、運賃前払の旨が記載されてあり、貨物到着通知先がバイヤーとなつているもの、原産地証明書五通、検査証明書五通、重量証明書五通、包装明細書五通の各書類を伴う送り状金額の全額について一覧表でナシヨナル・バンク・オブ・エジプトを支払人として振出された受益者の荷為替手形に対して有効である旨の記載があること、しかし、包装明細書の作成様式について具体的指示はないこと、本件各信用状に基づく手形買取銀行が信用状開設者である被控訴人に対し金員の償還を請求するについては、買取銀行がユナイテツド・カルホルニア銀行に宛て信用状番号及び開設日を明示した荷為替手形を振出して郵送し、かつ、被控訴人に対しすべての書類を二つの別々のセツトにして航空便で郵送すること等が要件とされていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) 控訴人らは、被控訴人がエジプト銀行から送付を受けた船積書類中には包装明細書が欠落している旨主張するので、検討する。
前掲乙第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし三、第二四号証、成立に争いのない乙第三二号証の一ないし四、第三三号証の一ないし四、第三四号証の一ないし四、原審証人山崎清の証言を総合すれば、被控訴人は、昭和四九年九月七日エジプト銀行から本件各信用状の要求する書類として、(イ)の信用状の貨物、(ロ)の信用状の(A)貨物、(ロ)の信用状の(B)貨物についてそれぞれ送り状、船荷証券、原産地証明書、重量、包装及び品質証明書、重量証明書の送付を受けたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
控訴人らは、右船積書類中には包装明細書が全く欠落している旨主張し、被控訴人は、右重量、包装及び品質証明書が検査証明書と包装明細書とを兼ねるものである旨主張するところ、前掲乙第七号証の一、二、第一八号証、第三二ないし第三四号証の各三、成立に争いのない甲第二〇号証の一ないし四、乙第三七号証の一、二、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める乙第三九号証、当審証人小原三佑嘉の証言、当審における鑑定人小原三佑嘉の鑑定の結果を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 包装明細書(Packing List)とは、梱包された内容物の一覧表を指し、通常どのような物品がどれだけ、どのような方法で、どのような種類の包装を施されているかを明らかにするための書類であつて、船積書類中の必須書類とされる送り状を補足する意味で売主側で作成する任意的な性格の書類である。
(2) 包装明細書の作成理由は、送付貨物の個々の梱包内容物が一見して判別しうるように表又は個書きにしてまとめることにあり、その使途は、売買契約においては梱包内容物の明細の案内通知書として、輸出、輸入通関においては送り状を補足し現品との照合、検査の便に供する資料として、銀行を通じての代金決済においては船積書類の一つとして、利用されることが多い。
(3) 包装明細書は、その形式及び内容において通常買主、税関当局、銀行が理解しうるものであればそれで十分であつて、これに関して確たる統一的な国際的慣行は存在しない。
(4) 包装明細書は、梱包内容物の一覧表であれば足り、それが他の船積書類と合体して一通の書面となつていても、容易にそのことを判読しうるものであれば差し支えなく、それのみで一個の独立した書面でなければならないというきまりはない。
なお、ロンドン ヨーロツパ・パプリケーシヨンズ・リミテツド一九七六年発行 故エツチ・シー・ガターリツジ及びモーリス・メグラー共著「銀行家の商業信用状法」一三〇頁(乙第三七号証の一、二)の紹介する裁判例((1952)6 L.D.B.320.)によれば、ネーザーランド・トレイデイング・ソサイエテイ対ウエイン・アンド・ハイリツト・カンパニー事件において、信用状はオリジナル・ウエイト・サーテイフイケツト(original weight certificate)とオリジナル・ジユート・ミルズ・サーテイフイケツト(original jute mills certificate)とを要求していたが、銀行は合体されたジユート・ミル・アンド・ウエイト・サーテイフイケイト(a combined jute mill and weight certificate )を受領した(accepted)ところ、右銀行の措置は判決で是認された。また、リチヤード対ロイヤルバンク・オブ・カナダ事件において、米国第二サーキツト管轄控訴裁判所一九二八年一月九日判決(Fed. Volume23(2d) 乙第三九号証)は、信用状が重量証明書の提示を要求している場合において、重量証明書が提示されなくても、重量が送り状に記載されておれば、信用状発行依頼人は、信用状発行銀行に対し補償の責任を免れない旨の判断をした。
(5) 包装明細書は、通常その書面上に表題として
「Packing List」の文言を付しているが、要式書類ではないから、必ずしも右のような表題がなければならないものではない。また、包装明細書は、通常梱包内容物の一覧表としての機能を果たすため、その必要項目として記号、番号、荷印、荷姿、数量、重量等を表又は個書きにして記載するが、貿易実務上の例によれば、包装明細書に各荷造梱包毎の数量、純重量、総重量、大きさ、容積等が表示されず、サイズ毎に分けられた梱包についてそれぞれ合計した純重量、総重量、大きさのみが表示されている例もある。
以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足リる証拠はない。
ところで、前掲乙第七号証の一、二、第一二号証の一ないし三、第三二ないし第三四号証の各一ないし四、当審における鑑定人小原三佑嘉の鑑定の結果を総合すれば、被控訴人が送付を受けた船積書類(乙第三二ないし第三四号証の各一ないし四)中には「包装明細書」という表題を付した独立の書類は存在しないが、しかし、(イ)の信用状の貨物、(ロ)の信用状の(A)貨物及び(ロ)の信用状の(B)貨物について各別に重量、包装及び品質証明書(乙第三二ないし第三四号証の各三)が存在し、これらはいずれもその表題が「重量、包装及び品質証明書」と記載されていて、表題中に包装・・・・証明書(CERTIFIOATE of......PACKING)の語があり、その本文の記載内容を見ると、本件各信用状が要求する包装明細書(Packing List)及び検査証明書(Inspection Certificate)を合体し、更に重量証明書(Certificates of Weight)をも合体した書面であること、即ち、右各重量、包装及び品質証明書には、契約番号の記載はないが、荷受人の名称、住所、船名、着地港、品名、梱包の数量、包装方法(「全商品は輸出に適するように麻袋に入れられて圧縮されており、鉄製の留金により帯状にしばられている」旨記載されている。)、商品全体としての純重量、総重量等が記載され、受益者であるエム・オー・エル・アシユリーにより署名されていて、包装明細書と目される記載が存在しており、右各証明書に記載されている商品は、それぞれ同一商品であり、かつ、ほぼ同一の重量、容積で、同一の方法により梱包されており、荷印、荷番号、荷造梱包ごとの種類、純重量、容積の記載はないが、右船積書類中の送り状(乙第三二ないし第三四号証の各一)には各梱包の純重量、荷印(A.F.T.C.O U.T.C JAPAN)が記載されていることが認められる。そして、右各証明書に記載されている商品は、それぞれ同一商品であり、かつ、ほぼ同一の重量、容積で、同一の方法により梱包されているから、荷番号を付し、又は荷造梱包ごとの種類、純重量を記載しこれらを一覧表又は個書きにすることは必ずしも必要でないと解され、また、右各証明書に記載されている商品は、それぞれほぼ同一の重量、容積で梱包されているから、積荷照合のための容積の記載をすることも必ずしも必要でないと解される。
以上認定したところによれば、信用状が包装明細書を要求しているがその作成様式について具体的指示をしていない場合において、独立した書面としての包装明細書を作成することなく包装明細書と検査証明書及び重量証明書を合体させて一通の書面としたものをもつて包装明細書を兼ねさせたとしても、直ちに信用状の条件との不一致を生ずるものということはできず、本件における前記重量、包装及び品質証明書(乙第三二ないし第三四号証の各三)は、包装明細書を兼ねるものであることを容易に判読することができ、かつ、本件商品に関し前記のような包装明細書と目すべき記載を具備しているから、本件各信用状の要求に合致する包装明細書を兼ねるものであるということができる。なお、前記重量、包装及び品質証明書には荷印の記載がないが、荷印は送り状に記載されているので、それで十分である。
よつて、被控訴人が送付を受けた船積書類中に包装明細書が欠落していて信用状条件との不一致があるということはできず、控訴人らの前記主張は採用することができない。
なお、控訴人らは、(イ)の信用状の貨物、(ロ)の信用状の(A)貨物及び(B)貨物はいずれも多数の梱包に分けて包装され共通の荷印が使用され、各梱包の方法(荷姿)も同一であるから、商品の区別がつかない旨主張する。
しかし、商業信用状取引は、書類の取引であつて(前記統一規則七条参照)、書類上で商品の混同がなければ足りるものであるところ、前掲乙第三二ないし第三四号証の各一によれば、右三種類の各貨物は、それぞれの商業送り状に分けて別々に記載され、区別は明らかであり、書類上で商品の混同がないことが認められる。したがつて、控訴人らの右主張は採用することができない。
(三) 次に、控訴人らは、被控訴人がエジプト銀行から送付を受けた船積書類中には(ロ)の信用状の(A)貨物に関する船荷証券が存在せず、そうでないとしても不完全なものであり、また、本件各信用状に関する船荷証券の各裏面に付されるべき白地式裏書が不鮮明であり、更に、原産地証明書の作成日付が船荷証券発行日後の日付であり不適法である旨主張するので、検討する。
前掲乙第七号証の一、二、第一二号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、(イ)の信用状の要求している船荷証券として、エジプト産フラツクス・スカツチド・トウ・タイプ・ジヤスミン約五〇メトリツク・トンの貨物に関する指図式で荷送人の白地式裏書がある船荷証券の全通があり、また、(ロ)の信用状の要求している船荷証券として、(A)貨物であるエジプト産フラツクス・フアイバー・ギザ・タイプ・カイザー約二五トンの貨物に関する指図式で荷送人の白地式裏書がある船荷証券の全通及び(B)貨物であるエジプト産ブロークン・フラツクス・タイプ・ハラワ約五〇トンの貨物に関する指図式で荷送人の白地式裏書がある船荷証券の全通があることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。よつて、(ロ)の信用状の(A)貨物に相応する船荷証券が存在しない旨の控訴人らの主張は、採用することができない。
もつとも、前掲乙第一一号証の二、第一二号証の二によれば、(ロ)の信用状の(A)貨物に関する船荷証券においては、(A)貨物はエジプト産フラツクス・フアイバー・タイプ・カイザーと記載されていて、ギザの文字が欠落していることが認められるが、しかし、前掲乙第一八号証によれば、統一規則三〇条三項は、「商業送り状に記載の商品の名称は、信用状面の名称と一致しなければならない。ただし、そのほかの書類においては、商品の名称は一般的な用語によることができる。」と規定し、船荷証券は同項にいうそのほかの書類に含まれるものと解すべきところ、(A)貨物に関する船荷証券においては、商品名が一般的な用語をもつて記載されていると認められ、かつ、右船荷証券における商品名の記載が明らかに信用状における商品名の記載と矛盾するものとはいえないから、右船荷証券においてギザの文字の欠落があることをもつて信用状条件との不一致があるとすることはできない。
また、前掲乙第七号証の一、二、第一二号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、本件各信用状の要求する船荷証券の各裏面には優に読みうる程度に荷送人の白地式裏書がされているものと推認するのが相当であり、それが不鮮明である旨の控訴人らの主張は、これを認めるに足りる証拠がない。
更に、前掲乙第一二号証の一ないし三、第三二ないし第三四号証の各二によれば、本件各信用状の要求する各貨物に関する船荷証券の発行日付はいずれも昭和四九年八月五日付であるが、右各貨物に関する原産地証明書の作成日付はいずれも同年八月六日付であつて、右各船荷証券の発行日付後の日付であることが認められる。
しかし、前掲乙第七号証の一、二、第一八号証によれば、本件各信用状においては、原産地証明書の作成日付が船荷証券の発行日付前、すなわち貨物の船積前の日付に限る旨の指示がなく、また、統一規則にも右のような指示をする規定は存在しないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。また、原産地証明書の日付が船荷証券の発行日付の前後、すなわち、貨物の船積の前後であるかどうかにより、その効力に影響があるものとは解されない(船積前に原産地証明書の発行を依頼し船積後にそれが発行されることがありうる。)。したがつて、控訴人らの前記主張は採用することができない。
(四) 以上の次第で、被控訴人が買取銀行であるエジプト銀行から送付を受けた船積書類中には本件各信用状が要求する包装明細書等の欠落等があつて信用状条件との不一致があつたとは認められず、したがつて、被控訴人が右不一致についての審査義務を怠つたものということはできないのであるから、被控訴人に対し本件各信用状による補償金の支払義務を負わない旨の控訴人らの前記主張は採用することができない。
二 よつて、原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 佐藤栄一 裁判官 相良甲子彦)